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最高裁判所第三小法廷 昭和35年(あ)397号 判決 1962年12月25日

主文

本件各上告を棄却する。

理由

被告人三名の弁護人松本善明の上告趣意(同上告趣意補充を含む)第一点について。

所論は、憲法二八条、同二一条違反を主張するが、憲法二八条の保障する団結権、団体行動権といえども一定の限界を有し、これを超えるものまでをも認容する趣旨でなく、違法な暴行、脅迫等が行われる場合に、それが一人によって行われるのと、団体若しくは多衆の威力を示して行われるのとでは、個人並に社会に与える影響には差があることは当然であるから、暴力行為等処罰に関する法律一条一項が、団体若しくは多衆の威力を示して暴行、脅迫等をした場合を、そうでない場合に比して重く処罰する旨を規定したことは合理的な根拠があることであり、また同法条は、勤労者の団結権、団体行動権の正当な行使自体を処罰しているものではなく、団結権、団体行動権の行使でもその正当なものについては、同法一条一項の適用される余地はないのであるから、同法条が憲法二八条に違反するとはいえないことは、当裁判所の判例(昭和二四年(れ)第八九八号同二九年四月七日大法廷判決、刑集八巻四号四一五頁)とするところであり、そして、暴力行為等処罰に関する法律一条は、団体成立の目的又は行動の動機の如何によってその適用が制限されるものではないと解するのが相当である(昭和二六年(れ)第二四二六号同二七年五月一三日第三小法廷判決、刑集六巻五号七六三頁参照)。

次に、憲法二一条の保障する言論の自由といえども国民の無制約な恣意のままに許されるものでなく常に公共の福祉によって調整されなければならないものであり、そして、食糧管理法に基く命令による主要食糧の政府に対する売渡をしないことを煽動するが如き言動は、公共の福祉を害するものであり、憲法の保障する言論の自由の限界を逸脱し、社会生活において道義的に責むべきものであるからこれを犯罪として処罰する法規は憲法二一条に違反するものでないとする当裁判所大法廷判決(昭和二三年(れ)第一三〇八号同二四年五月一八日大法廷判決、刑集三巻六号八三九頁)の趣旨に徴するときは、団体若しくは多衆の威力を示し刑法二〇八条又は二二二条の罪を犯す所為は、公共の福祉を害し憲法の保障する言論、表現の自由の限界を逸脱し社会生活上道義的に責むべきもので、しかも通常の暴行脅迫罪よりも一層重い態様のものであるから、暴力行為等処罰に関する法律一条がこれを犯罪として所定の刑罰を科すべきものとしても、又、同条に該当する所為に対し所定の刑を科する判決をしても憲法二一条に違反するものとはいえない(昭和三一年(あ)第三一四号同三三年四月二二日第三小法廷判決、刑集一二巻六号一一一八頁参照)。

それゆえ被告人らの本件各所為が、たとえ勤労者の団結権、団体行動権の行使或は言論、表現としてなされたとしても、これに対して暴力行為等処罰に関する法律一条一項、刑法二〇八条を適用して処断した第一審判決を是認した原判決が所論の憲法の各条項に違反するものとはいえない。論旨は理由がない。

同第二点について。

所論は、憲法三七条一項違反を主張するが、憲法の右条項にいう公平な裁判所の裁判とはその組織、構成等において偏頗の虞のない裁判所による裁判という意味であることは当裁判所屡次の判例の趣旨とするところであり、原判決が組織、構成等において偏頗の虞ある裁判所によりなされたことを認むべき資料は記録上存しないのであるから、所論も採るをえない。

また、所論は、憲法三一条違反を主張するが、その実質は事実誤認、単なる法令違反の主張に帰し、適法な上告理由に当らない。

同第三点について。

所論(一)は第一審判決は経験則に反して証拠の取捨、事実認定をした違法がありこれを支持した原判決は論旨引用の判例に反するというけれども第一審判決挙示の証拠によってその判示事実を認定しても何ら経験則、採証法則に違反するものでないから判例違反の主張は前提を欠き採用できない。

所論(二)も判例違反をいうけれども、刑訴四〇五条二号又は三号にいう判例と相反する判断とは、有罪判決の擬律についていえば、法令の解釈適用について控訴審判決が何らかの判断をした場合においてその法律的判断が判例上の法律的判断と相反する場合をいうのであるから、第一審有罪判決の擬律について、控訴趣意においてこれを法令違反であるとして攻撃しないため、控訴審判決が何ら法律的判断を示さなかった場合には、この控訴審判決に上告理由となすべき判例と相反する判断があるとはいえない。本件についてこれをみるに、なるほど、起訴状の記載によれば公訴事実は所論のように被告人らは判示日時場所においてその他の労働組合員らとともに判示労働争議に際し二、三十名の組合員とともに気勢を挙げ多数の威力を示し共同して各被告人らにおいて(一)ないし(五)の暴行を加えたものである(罰条、暴力行為等処罰に関する法律一条一項、刑法二〇八条)、というのであるのに、第一審判決はその認定した事実のうち被告人臼田富士雄、同小坂金成の各所為をそれぞれ刑法四五条前段の併合罪として擬律しその加重をした刑期範囲内において量刑処断していることは明らかであるが、同判決に対し被告人側は控訴趣意において何ら右の点を違法であるとする主張をしていないこと明らかであるから、原審としてはこの点について判断しなかったのは当然であり、原審が示さない判断に判例違反があるとの主張は前提を欠き採用することができない(昭和二五年(あ)第二一二一号同二六年三月二七日第三小法廷決定、刑集五巻四号六九五頁参照)。

同第四点について。

所論は、事実誤認、単なる法令違反の主張であって、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

また記録を調べても同四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 垂水克己 裁判官 河村又介 裁判官 石坂修一 裁判官 五鬼上堅磐 裁判官 横田正俊)

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